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学んだことや興味のあることを忘れないようにするためのブログ.それが人の役に立てば幸い.

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」レビュー、あらすじ、感想〜多様性を考える好材料〜

この本を読んでほしい人

  • 日本以外の国の多様性を知りたい人
  • 普通の輪に入れなくて悩んでいる人
  • 自分をわかってもらえないと悩んでいる人
  • 身の回りの差別やいざこざに悩んでいる人
  • すべての親

手にとったきっかけ

黄色の表紙がとても印象的で、色々なところでおすすめされていたのでずっと気になっていた。
どういう本か全く知らなかったのだが、たまたまKindleセールで安売りしていたので購入した。

あらすじ

この本はノンフィクションである。
表紙のイメージから勝手に青春物の小説とか、若者が活躍する小説をイメージしていたのだが、違った。

筆者は日本で生まれイギリスで生活しているフレディみかこさん。
ご両親は日本人なので、人種で言えば日本人だ。
福岡の貧困家庭で生まれ育ち、イギリスで結婚し生活している。

この本では彼女の家族のイギリスでの生活、
特に一人息子の学校生活にスポットをあてて日々の出来事が綴られている。

イギリスは日本と同じ島国なのでなんとなく似ているのかなと思いきや、
日本とは比べ物にならないほどの多様性で溢れていることを知ることができる。

そして、ダイバーシティという言葉が流行し、
「多様性=いいこと」というイメージが広く浸透しているが、
実際に多様性のど真ん中にいるとどういう問題が身の回りで発生するかを知ることもできる。

ネタバレありレビュー

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

最初このタイトルを見た時、なんのことか全く分からなかった。
日本人がイエローと呼ばれることは知っていたが、日本で生まれ育ち日本人に囲まれて生きている自分には、
色=肌の色と結びつける思考回路が自分の中にないからだ。

日本人の母(筆者)とアイルランド人の父のハーフから生まれた筆者の息子は、
まさにイエローでホワイトだ。

筆者の息子は作中でこのような言葉を述べている。

「僕はこれまで、両親が別々の人種で、違う文化を持ってて良かったと思 ってた。そのおかげで日本とか、ほかの子たちはぜったい行かないような 国に毎年行けるわけだし、外国にファミリーがいるなんて、ちょっと格好 いい。けど、僕は日本人ではないでしょ」
「 ...」
「例えば、夏に日本に行ったときでも、じいちゃんの家の近くのお店で、 酔った人にからまれたけど、あの人、僕のことが嫌いだったんでしょ?
日本人じゃないから帰れって言ってたんでしょ?」
「いや、そこまでダイレクトではなかったけど。......そうか、だいたい何 が起きてるかわかってたんだね」
「そりゃわかるよ、あの人、ずっと僕のほうばかり見て、怒った顔で喋っ てたから」
息子はそう言って顎のあたりまでブランケットを引き上げた。
「日本に行けば『ガイジン』って言われるし、こっちでは『チンク』とか 言われるから、僕はどっちにも属さない。だから、僕のほうでもどこかに属している気持ちになれない」

自分は日本人の両親から生まれ、日本で生まれ育ったので、ハーフとして生まれた人がこのような気持ちを抱くとは全く想像できなかった。
ハーフであることをからかわれている人を見たことはあったので、大変なことは多いだろうなと想像はしていたが、
自分がどこにも属していない感覚を抱くということはこの本を読んで初めてしった。

この息子さんは生まれも育ちもイギリスで日本語を話すことはできない。
本人の感覚としては純粋なイギリス人だ。

けれども、大きくなるにつれ、母から受け継いだ東洋人の血が見た目にもハッキリと現れてくる。
急に人種差別的な言葉を浴びせられる経験も増えてくる。

日本、イギリスそれぞれで差別的な言葉を浴びせられ、その後に出てきた会話が上の内容だ。

後でも述べるが、自分とは異なる立場の人には自分とは異なる悩みが存在する。
当たり前のことだけど、どうしても人の悩みに向き合う時、自分の立場や想像の範囲内でしかそれに向き合うことができない。

息子さんの上の会話を見て、自分の想像の幅がいかに狭いかを改めて知ることができた。

人種以外の多様性

上の話は人種にまつわる多様性、差別の事例だが、本書ではそれ以外の多様性が沢山登場する。

  • 学校間の差(学力、生徒の荒れ具合など)
  • 子どもや地域の間の貧富の差
  • 貧富の差から生まれるスポーツ等の成績の違い

日本にも貧困家庭は存在するが、イギリスは貧困に喘ぐ子どもの数がとても多い。

平均収入の3%以下の所得の家庭で暮らす子どもの数が410万人に増えていた。これは英国の子どもの総人口の約3分の1になる。
「小さい子どもたちは『お金がないから買えない』って言えるけど、中学生になると一生懸命に隠すようになる。
だから、お臍が見えそうになった ポロシャツを着ている子にそっと新品を買って渡したり、ファスナーが閉 まらなくなってるスカートを毎日はいて来る子にお金をあげたり、そういうことを教員が自分でやり始めた。

給食が食べられなかったり、服が買えない家庭の子どもがこんなにも多いとは知らなかった。
そして、国の緊縮財政のため十分な支援を子どもたちが受けられず、周りの好意がそれらの子を支えていることも知った。

「多様性=よいこと」というのが最近の認識だけど、
解決が必要な多様性はあるよね。
という当たり前のことに気づくことができた。

そして、それをしっかり国、行政に求めて行く必要があることも。

エンパシーとシンパシー

  • 世界には自分の知らない多様性があること
  • 人種の違い、性的嗜好の違い等の多様性だけではなく、貧富の差などの多様性に苦しむ人達がいること

これらは文字にしてみれば当たり前のことだが、
日本で生活していてこれらの多様性を実感する機会は実はそんなにない。
この本を読むことで、改めて色々な多様性が存在すること。解決が必要な多様性の問題もあること。を知ることができた。

多様性に向き合う中で大切なキーワードが本書で出てくる。
エンパシーとシンパシーだ。

それぞれ以下のように説明されている。

シンパシーのほうはかわいそうな立場の人や問題を抱えた人、 自分と似たような意見を持っている人々に対して人間が抱く感情のことだから、自分で努力をしなくとも自然に出て来る。だが、エンパシーは違う。 自分と違う理念や信念を持つ人や、別にかわいそうだとは思えない立場の人々が何を考えているのだろうと想像する力のことだ。シンパシーは感情的状態、エンパシーは知的作業とも言えるかもしれない。

自分の想像の範疇の苦しみに対しては、シンパシーで共感し救いの手を差し伸べることができる。
でも本当に多様性を大切にしていくには、エンパシーが大切だということを学んだ。

少し前に読んだ正欲でも感じたが、自分の経験の範疇だけで物事に向き合っていてはシンパシーで共感することしかできない。
人はそれぞれ違う。
それを本当に理解して、お互いを支え合っていくにはエンパシーをもっと高める必要があることを知った。

エンパシーを高めていくには、

  • 自分の想像の幅を広げること
  • 自分の想像の外側の世界、人たちが存在することを知ること

が大切だと思う。
この本はこの2つを与えてくれるとてもいい本だった。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン

さて、最初はイエローでホワイトであることから、ブルーな気持ちになっていた息子さん。
この本の終わりではブルーではなく、グリーンだ。という言葉を発する。

一体どういうことだろうか?
それはぜひあなたに確かめてほしい。